不動産を売却したら売った方に税金がかかるのは当たり前。しかし買った方にも税金がかかる場合があるのです。今回はそんな不思議な事例を見ていきたいと思います。
開業医だった父が亡くなりました。母は早くに亡くしており相続人は子どもである太郎さんと次郎さんの二人だけです。二人ともこれまでは勤務医として活躍していたのですが、将来は兄弟でクリニックを引き継いでいってほしいという父の生前の意向に従い、クリニックの土地と建物を2分の1ずつ共有で相続することにしました。
しばらくは兄弟二人で亡父のクリニックを引き継いで頑張っていたのですが、しだいに二人の間で経営方針等の意見が合わなくなり、次郎さんは別の場所で独立して開業することになりました。
次郎さんは開業資金が必要なのでクリニックの土地建物を売却したいと思うのですが、太郎さんは今の場所で診療を続けたいので売却などとんでもないという考えです。クリニックの土地建物は二人の共有なので次郎さんの意思だけでは売却することができず困ってしまいます。交渉の結果、最終的には太郎さんが次郎さんの持分を買い取るということで話がまとまりました。
このクリニックの土地建物の時価が1億円だったとしましょう。次郎さんの持分は2分の1ですから半額の5,000万円で太郎さんに買い取ってもらいたいところです。しかし太郎さんも資金にそれほどの余裕はなく出せるのは3,000万円が精一杯とのこと。結果、3,000万円で売買することになりました。
次郎さんは不動産を売却したので譲渡所得税がかかります。これはまあ想定内だったので税理士にどれくらいの税額になるのか相談したところ、「次郎さんの税額はこれくらいで、太郎さんの税額は...」と言い出したのでびっくりしてしまいます。どういうことかとたずねてみますと、
「太郎さんは5,000万円の値打ちがある不動産を3,000万円で手に入れたわけですよね。ということは、太郎さんはこの取引で2,000万円得したことになります。この得した2,000万円というのは弟の次郎さんから贈与されたとみなされますので、太郎さんには贈与税がかかるのです。」
とのこと。ちなみに2,000万円の贈与について課税される贈与税額はなんと720万円!こんなに高額の税金がかかるようではと、持分買い取りの話は白紙に戻ってしまいました。
相続税法第7条に「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」には、時価とその対価との差額分の金額の贈与があったものとみなして贈与税の課税対象とする旨が規定されています。(個人間取引の場合)
このみなし贈与、特に不動産取引など大きな金額の取引について適用されてしまうと思いもよらない高額の贈与税がかかってしまうことにもなりかねません。今回の事例のように親族間で不動産などの高額資産を売買する場合には事前に税理士に相談するなどして価格設定には十分気をつけるようにしてください。
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昭和44年11月29日生。大阪府堺市出身。神戸市外国語大学中国学科を卒業後、特殊鋼の専門商社に入社する。そこで香港現地法人立ち上げに関わった経験から中小企業の財務会計に興味を持ち税理士資格取得を志す。その後会計事務所勤務を経て平成20年4月に酒井税理士事務所を開業する。“税に関する情報をわかりやすい言葉でお伝えします!"をモットーに、情報を必要とする方に有益な情報を届けることに注力し、現在では多数メディアにも掲載され活躍されておられます。